1979年10月 上海横浜工業展:御髪が乱れる|ぼくの海外広告アドベンチャー時代

 
そのブースで、僕たちは、数人の通訳を雇った。勝手に雇うわけには行かず、事務局に何人必要かを告げ、事務局から配給されるシステムだった、如何にも当時の中国らしい。
 
確か3人ほど雇ったと思うが、皆若い日本語学校の生徒だった。かなり流暢な日本語を話す、意思の疎通には基本的に問題ない。
当然みんな人民服を着ている。
 
その中に一人女性が居て、地味な身なりで余り美人とは言えないが、活発で、素直な、なかなか気持ちの良い女性だった、日本語学校の生徒で、当然まだ若い。
彼女から、思わぬ一撃を食らった。
 
「森本先生、オグシが乱れています。」
 
一瞬、何を言われたかわからなかった。
先生、というのは、私たちみんな先生と呼ばれていたので、問題ないのだが、「オグシ」がわからなかったのだ。
 
そんな昔でも、既に「御髪(おぐし)」は使われていなかったし、そもそもそれは書かれる文字でしか使われなかったのではなかったか、・・・。
なるほど、ぼくのオグシ(御髪)は乱れていたのだ。
 
良く聞いてみると、彼女たちの日本語は当時使われていた日本語とかなりの点で違っていた、ちょっと古い表現が多いのだ、多分、まさか源氏物語がテキストではなかったろうが、例えば夏目漱石とかの文豪がテキストなのかもしれない。
 
僕たちはわいわい言いながら、その当時の生々しい日本語を、ちょっと生々しさ過ぎるのも含めて、遊び半分で教えてあげたのだった。

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